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時既に遅し。
渚さんの白くてしなやかな人差し指には赤い玉の滴が浮かんでしまう。
己の情けなさを痛感したらしい渚さんは『う゛ぅ……』と唸りながら傷ついた指先を恨めしそうに睨んでいる。
それは子犬が小さな虫を威嚇する姿に似ていて不謹慎ながらも笑みがこぼれてしまう。
「むぅ~何が面白いんだよ?」
おっと、笑いすぎたか?
やべぇ~怒りの矛先がこっちに向きそうだぜ。
「まっ、まぁまぁ、怪我の治療をしましょうよ!」
「ちぇっ、なんだか無理矢理話を逸らされたみたいだぞ」
若干拗ねた横顔を見せながら渚さんは俺に手を差し伸べた。
差し伸べられた手の意味が理解できずに俺は『?』を浮かべる。
「こっ、こういう時は男が指をくわえるのが定番じゃないのか!?」
「そっ、そんな定番は知りません!」
突発的に意味のわからないことを言い出す渚さんは本気で心臓に悪すぎる。
仕方なく俺は彼女の手首を掴み、立ち上がるように促した。
しかし、渚さんは自分が想定していた事態が訪れないことが不満らしくなかなか立ち上がろうとしてはくれない。
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