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『仕方ない……』と内心でため息を吐きながら、俺は渚さんのツリ目で力強い瞳をのぞき込んだ。
「誠心誠意治療しますので、お手をお貸しくださいませ渚様」
執事精神MAXになりきった俺はわがままを告げるお嬢様を諭すような口調で告げた。
すると、渚様は頬をポッと赤らめて『……おう』と小さく頷いて立ち上がってくれた。
やれやれ、この人も困った人だな。
苦笑がこぼれるのだが、渚さんのホクホクと嬉しそうに笑う姿を見ていると、こちらまで心が温まるのが不思議でならない。
俺は心に満ちる暖かさを感じつつ、スタッフルームに常備してある救急箱を取りに行く旨を渚さんに告げてその場を後にした。
ちなみにこの時の流れをちらっと森羅に話をしたら唇を尖らせて拗ねてしまった。
乙女心とはまったくもって理解出来ない難解なものである。
さて、早めに治療してバイトの続きをしないとな!
ガチャッ!
スタッフルームにたどり着いた俺は勢いよく扉を開け、意識を数秒間失った。
それは何故か?
答えはあまりにも単純明確だ。
スキンヘッドの筋肉マッスルなおじさんがメイド服姿で、自分のワイシャツに頬ずりをしている場面に出くわしたら誰だって考えることを放棄するのは当たり前だ。
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