81人が本棚に入れています
本棚に追加
それから30分後。船は、東京湾を出て、太平洋に乗り出していた。
時刻は、午前9時30分。冬の太平洋にしては波は静かで、風もそこまでなかった。
遠藤は、甲板から水平線を見つめていた。潮風が身体に吹き付けていて寒いが、気持ちいい。遠藤は、海が好きであった。小さい頃から、海を見ていると心が落ち着く。だから、海が唯一の心が安らぐ場所だった。
「やあ、遠藤博士。久しぶりですね」
後ろから声を掛けられ、遠藤は急いで後ろを向いた。そこには、長身(180ぐらい?)の小野田雅彦(おのだまさひこ)が立っていた。小野田は、《しんかい》のパイロットである。
「ああ、小野田君。また大きくなったんじゃない?」
「そんなことありませんよ、博士。身長は前と変わりません」小野田は、豪快に笑った。船が波を分ける、派手な音よりも、その笑い声ははっきりと聞こえた。
最初のコメントを投稿しよう!