第1章/列島の異変

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午後3時過ぎに、《勝鬨丸》は小笠原諸島沖合いに到着した。波は凪いでいて、風もあまりない。空には、12月下旬の弱々しい太陽が煌めいていた。 「《しんかい》、降下開始」 船橋の橋本元就(はしもともとなり)船長は、無線にそう吹き込んだ。と、同時に後部デッキに設置されている《しんかい》が、ゆっくりと鉄製の鎖に吊るされながら降下していた。鎖は、ぎりぎりと嫌な音を出していた。 『《しんかい》、着水完了。これより、潜航を開始する』 スピーカーを通して、小野田の声が船橋に響いた。橋本は、それに「了解。よい潜航を」と答えた。 海底開発興行株式会社所属深海潜水艇(しんかい)は、全長62メートル、幅5メートルの、比較的大きな潜水艇だった。前方に位置する居住区には、最大で3人の乗船が可能だ。この日は、地質学者遠藤と、パイロット小野田、それ遠藤の助手である霧島が乗り込んでいた。 また、深海調査システム《レモラ》を3機、搭載していた。《レモラ》は、《しんかい》のいわば“目”であり、より広範囲の捜索を可能とさせた。
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