第1章/列島の異変

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《しんかい》は、深度9000メートル付近で潜航を一旦止めた。観察窓の外には黒一色に染まった闇がどこまでも広がっていて、時折、不気味な深海魚が前を横切るだけであった。 「……遠藤博士。日本海溝です」 目の前に、巨大な亀裂が目に飛び込んだ。その更に深い闇に染まるそれは、小野田も何回も潜っている、日本海溝の姿だった。幅は、数十メートルぐらいだろうか。最も深いその水深は10000メートル近くあり、地上の最高峰であるエベレストよりも高い。――それが、「日本の背骨」とも言える日本海溝の姿だった。 「遠藤博士。深度9580メートルです。着底しますか?」 小野田は、ただ腕組みをして椅子に座っている遠藤に、そう訊いた。遠藤は、じっとカメラが映した日本海溝の姿を凝視しながら、「いや、いい。――先に行ってくれ」と答えた。
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