第1章/列島の異変

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偽底像(DSL)は通常、数百メートルぐらいの深度に存在しているプランクトンの層が、超音波探信を乱して発生する現象である。こんな深海底で起こるはずがなかった。 「小野田君、これは――、何だね?」 遠藤は、冷静を保ったまま訊いた。 「分かりません。前回潜った時――それでも1ヶ月前ですが――には、こんな物、絶対にありませんでした」 はあ、はあと荒い息を吐きながら、小野田はそう答えた。操縦レバーを握る手には、汗が滲んでいて、べっとりとしていた。DSLは、その先で切れていた。 「先生、あれは――」 霧島は、観察窓を覗きながら、指差した。 「……乱泥流(らんでいりゅう)だ」 見れば、海底が、何かをそこでかき回したような濁った光景が広がっていた。 「そんな……!DSLにしろ、乱泥流にしろ、こんな海底で起こるはずがない!」 霧島が大声で叫ぶ。 「しかし、これが現実だ。現に、今、この場所で起きている。その現実を、認めるしかない」遠藤は、相変わらず落ち着いた声だった。その時、ゴン、と《しんかい》が揺れた。
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