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若い男は何も言わず、紗夜を抱えて歩く。男は、紗夜と出会ったあの場所へ向かう。
ギィ…
古い扉の音が響く。
『よし…ここなら、少しは安心か…』
紗夜をゆっくり床に降ろした。まだ、ぐずって泣いてる紗夜に男は
『お前…何処から来た?服にしろ、七ツ国の人間じゃないな?』
紗夜は少しずつ、落ち着きを戻す。男の質問にゆっくり答える。
『何…それ?七ツ国って…初めて聞くけど…』
男は飽きれた顔をしながら言う。
『お前…それ、答えになってないぞ…。お前、名前は?』
涙目ながらも、落ち着きを戻した紗夜。一つ深呼吸をして、男に答えた。
『人に名前を聞く前に自分から名乗ってよ。』
男の顔が引き攣った表情になる…
『お前は、命の恩人に向かって、その口の聞き方はねぇだろぅがっ!?』
紗夜のこめかみを、ぐりぐりと拳でやられる。
『痛っ!痛いっ!ごめんなさい!!紗夜です!痛い~!』
『よし、いい子だ。』
こめかみの拳は直ぐに外された。かなり、痛かった。両方のこめかみを摩りながら紗夜は言う。
『じゃ…。なんて呼んだらいいの?…』
『浅葱[アサギ]だ…。お前…何処から来た?』
急に聞かれた質問にキョトンとする紗夜。
『えっ!?ここまで…普通に電車で来たよ。』
浅葱から驚いた返事が返ってきた。
『で…電車ってなんだ?』
お互い訳が解らないと言った表情を浮かべる。しばし沈黙が続く。
(浅葱ってかなりの田舎者なの…それとも、冗談かな…)
『あ…浅葱って電車知らないの?ここの交通手段は?』
『知らないも何も見たことない。馬だけだ…なんだ、その…でんしゃと言うやつは。』
『……。』
(あの時…歩いて、駅も線路も無かった。それに、今まで七ツ国なんて聞いた事ないし…。一体、ここは何処なの?)
困った顔して悩む、紗夜…
それを見て、浅葱は紗夜のオデコを突いた。
『何すんのよ!人が考え込んでる時にぃ!!』
『恐っ。お前、考え過ぎ。まぁ、帰り道が解るまで、付いてやるよ。』
ケタケタと笑う浅葱にムゥっと膨れる紗夜。
外は夕刻…
二人は、神社の中で過ごす事となる…。
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