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「……こんばんは」
彼女の冷たく覇気のない口調にはいつも寒気を感じる。雨の音にかき消されそうなか細い声だった。
「こんばんは。蒼井さん久しぶりです!今日部活来ますね。良かった。いつも二人とかだから……」
僕が所属するミステリー研究会は、部員七名の少人数で通称のほほんクラブと呼ばれていることから、活動はあまり行っていない。ただ好きな小説の話をするだけである。
そして彼女もそのうちの一人。推理の実力は定かではないが、相当頭の切れるお方らしい。敬語であることから、僕が二回、彼女が三回生と解釈出来る。
「ごめんね。じゃあ行こっか」
すると彼女は濡れるのを拒むことなく、雨の中をゆっくり歩いていく。僕はうんざりだ。とりあえず蒼井さんの腕を引っ張り、部室に連れて行った。
部室は運良く、一階の広場前に位置している。入り口にはミステリー研究会とでかでかと看板が立てかけており、横に木のベンチがある。
ドアは開けられており、入り口から灯りが漏れていることから、誰かいることがわかる。僕達はゆっくりと光の中に一歩踏み入れた。蒼井さんは眩しそうに目を瞑っている。
そして、目に入ったのは先ず部長の長瀬さん。通称十五浪の長瀬と呼ばれている。その名の通り、大学受験を十五回失敗しており、年齢は最年長である。
風貌は体格が無駄に良く、体育会系かと一瞬思うほとで、短髪、彫りが深い顔立ち。一見大人の魅力を兼ね備えたハンサムだけに、何故十五浪したか未だに謎である。
そして惜しいことに同じ二回生だ。
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