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―――四月一日
私は今、半開きの桜の下でクラスメイトと向き合っていた。
柔らかそうな茶っ気の髪が太陽に当たって、とても爽やかに見える。
「話って?」
「俺、お前が好きなんだ」
彼らしいストレートな言い方に胸が高鳴った。
嬉しい
嬉しい
彼も私を想ってくれていたなんて。
「私――」
『私も好き』と言おうとした言葉は彼の笑い声で遮られてしまう。
「なんてな。引っ掛かったか?」
「え?」
「今日は四月一日、エイプリールフール」
『エイプリールフール』一年で嘘を吐くことが許される日。
嘘が許される。
許されるけど、
だけど、
「おーい!大丈夫か?」
「『好き』だなんて嘘吐かないで!」
涙目になって叫ぶ私を見て彼はびっくりしたようにシュンとした。
「ご、ごめん」
そう謝る彼を見て、本当に『嘘』なんだと実感してしまう。
「なんで『嘘』なのよー。嬉しかったのに……」
「……あながち嘘じゃなかったり?」
躊躇いながら言う彼を私は素早く顔を上げて見つめた。
「私のこと好きなの?」
「ん、まあ……」
「どうせ嘘でしょう」
「ふんっ」とそっぽを向くと、彼は慌てる。
「本当だって」
「信じられない」
「……じゃあ」
チュッ
「信じた?」
満足そうに私の唇を奪った彼は言うので、なんだか腑に落ちない。
「全然」
「え」
「信じないんだから!」
「おい、待てって」
彼を無視して歩く私の口元には、ほんのり笑みが浮かんだ。
明日は本当のことを言うから、これくらいの『嘘』吐いてもいいよね?
END
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