桜咲く

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  無料駐車場に、見慣れたシルバーの軽自動車を見つけた。奈々のお母さんだ。   「お母さん、桜ちゃんも一緒なんだけどいい?」   こう奈々が訊ねて断られた試しはいまだかつてない。   「勿論。どうぞ、桜ちゃん。その様子だと合格したのね」   奈々のお母さんが微笑んだ顔を見て、そっくりな親子だな、と改めて感じた。   決して派手ではないが、パートタイムで働いているという奈々のお母さんは、いつも小綺麗にしている。   そのせいだろう、初対面の時は実年齢より若く――30代かと思ったくらいだ。後に40代半ばと聞いて大いに驚いたが。 「はい。これから3年間、またお世話になります」 常にと言っても過言ではない程父さんが不在の私は、母が出ていって以来、奈々やその両親にお世話になる機会が多い。   彼女達はいつだって私を快く迎えてくれる。   そこが私の本当の居場所ではないことは、誰に言われるまでもなく知っているけれど、その気持ちがとても嬉しかった。   「こちらこそ奈々をよろしくね。2人ともまた同じクラスになれるといいわね」   後部座席にいた私には、運転している奈々のお母さんの顔を直接見ることは出来なかったけれど、ミラーに映る瞳はとても優しいものだった。
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