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「沙穗ちゃん、大丈夫? どっか怪我とかしてない?」
「うん、ありがとう、朝居くん。ごめんね……」
「ううん、無事ならいいんだ。……心配してたんだよ。七時過ぎても、なんの連絡もなく帰ってこないから、なにかあったんじゃないかって。なあ、カイト」
普段なら俺よりももっと沙穗ちゃんの身を案じるであろうカイトは、俺の呼びかけには答えず、深く項垂れる妹の肩にそっと手を乗せた。なんと声をかけたらいいのかわからない様子で、沙穗ちゃんの背中を見下ろしている。
もしかしたら俺は邪魔になっているのかもしれないと、ふたりを見ていて気付いた。心配だからと強引にくっついてきたが、沙穗ちゃんの無事も確認したことだし、そろそろ帰るべきだろう。
俺がいないほうが心置きなくシスコンを発揮できるだろうし、と、俺はできるだけ雰囲気を壊さないよう、声を潜めて帰宅することを告げた。
「それじゃ、今度こそ俺は帰るね。沙穗ちゃん、当分は一人歩きしないほうがいいかも。あいつらこの辺の奴かもしんないし。じゃ、またなカイト」
カイトはなにも言わなかった。それどころか、沙穗ちゃんに目を落としたままこちらを振り向くこともしない。俺はその態度を怪訝に思いながらも、沙穗ちゃんに手を振って駅への道を歩き出した。
ぽつりぽつりと街灯の並ぶ歩道で、ぼんやりとカイトの不審な態度を思い返す。
そういえば途中からやけに静かだったが、俺がなにかやらかしたんだろうか。さっぱり覚えはないが、ちょっと出しゃばりすぎたのかもしれない。沙穗ちゃんと手もつないだし、それが気に障ったのか。とにもかくにも、明日会うことがあったら弁明しておこう。なにか勘違いでもされていたら面倒だ。
再び駅前の通りまで出てきた俺は、周囲に気を配りつつ、足早に駅の改札をくぐり抜けた。
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