全力でアピール

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 いくらなんでもやり過ぎだ。俺は衝動のままに覆い被さる破廉恥野郎の頬を殴り飛ばすと、慌てて乱れた制服を整えた。  下肢は欲求を堪えきれないようで、ガクガクとおぼつかない。すぐにでもこの場を去りたかったが、今のままでは立ち上がれそうもなかった。 「なにしやがる……っ!」 「なにって、おまえが誘うからしただけだが」  またそれか。  以前にもそう言われたことがあるが、俺は一度としてカイトを誘ったことなどない。反駁しようと思考を巡らせたが、まともな言葉は思い浮かばなかった。  もう頭がぐちゃぐちゃだ。なにより解放されない熱がつらい。  早くトイレにでも移動したいところだが、この状態で移動すると人目に付く恐れがある。少しすれば治まるかとも思ったが、どうも自分で想像した以上に昂ぶっていたらしい。 「どうした」  こちらの切迫した状況を理解していながら、カイトは至極真面目な顔で様子を窺ってきた。  伸ばされた手を払いのけることも可能だったが、俺は彼の好きなようにさせる。もうどうにでもなれという投げやりな気持ちになっていた。 「……つらいのか、朝居」 「ああ、誰かさんのおかげでな。責任取ってトイレにでも連れてってくれんのか?」 「おまえがそれを望むのなら。処理も任せろ」 「いや、それは遠慮する……」  俺の腕を取って立ち上がらせ、カイトは校舎に向かって歩き出した。冬服でもない制服では隠したいところも隠せない。かろうじて持たされていた弁当の包みで前を覆いながら、連れられるまま校舎一階のトイレに足を踏み入れた。  保健室や教員室近くの手洗い場は人っ子ひとりおらず、図らずも貸し切り状態だった。それをありがたく思いながら、前屈みに個室のひとつに駆け込む。素早く鍵をかけてカイトの侵入を阻止し、便器に腰掛けてペーパーホルダーの上に弁当の包みを置いた。  いそいそとベルトを弛め、前立てを開く。下着の中に手を差し込もうとしたときだった。
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