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「ボクとしてはさ、ヒーローくんが沙穗ちゃんに抱いてた感情も恋じゃなかったんじゃないかと思うんだよね」
「え……」
「だってさ、きみ、あまり真剣じゃなかったでしょ。振られて悲しいけど友達として顔を突き合わせていられるのって、その程度の気持ちだったってことじゃないの? カイトは違うよ。きみに本気で拒否られたら、たぶん学校に来れなくなっちゃう」
それって脅しか。目を剥く俺に、金泉はそうじゃないと首を振る。
「それだけ依存してるってこと。なんせ初恋だからさ、加減っていうものがわかってないんだよね。ヒーローくんはそれが怖くて引いてるだけなんじゃないの? ってボクは思うわけだけど……」
「わからん。もう全然わからん」
そう言われるとそんな気もしてくるし、でもやっぱりそうじゃないと否定もできる。
好きという単語を頭の中で唱えすぎて、ゲシュタルト崩壊したような混乱具合で頭を抱える俺へ、金泉は哀れむような眼差しを送ってきた。
「まあ、とりあえずさ、カイトには沙穗ちゃんのことなんてすっぱりきっぱり諦めついてて未練がないってことくらい教えてあげれば? 好きじゃなくても期待させてでもいいから。そしたら、ちょっとはヒーローくんがパニックになるようなアホなことしなくなるでしょ」
金泉は断言するが、そう思い通りにことが運ぶだろうか?
一抹の不安を抱きながら、俺たちは会話を切り上げて教室へと戻った。
その日の放課後はひとりで帰宅するつもりで、金泉たちより先に教室を出た。
靴箱からスニーカーを取り出してみたところで、ふとカイトを待ってみようかと思い立つ。
不思議なことに、今日は一度も会っていなかった。お昼の弁当も金泉に手渡されたし、あっちもあっちで思うところがあるのだろうか?
学年が違えば一日会わないことも当然あるだろう。けれど、ほぼ毎日顔を合わせている人間が前触れもなく会いに来なくなるというのは、知らない町で道に迷ったときのような心許なさを感じさせた。
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