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「なんだ?」
「いや……うーん。とにかくここは人目につくから行こう」
「……ああ」
煮え切らない俺の返答に怪訝な顔を見せながら、カイトは抵抗していたわりにあっさりと応じた。
とはいえ、どこへ行こうか?
カイトの家は駄目だと言うし、かといってそこらの店にも入りたくない。だったら行くところなどひとつしかないだろう。
正直連れて行きたくないけど、他に選択肢もない。俺は人を迎えても大丈夫な状態だったか思い返しながら、駅までを道なりにたどった。
最寄りの駅で降りて、嫌そうにするカイトを宥めつつ自宅へと帰ってきた。
「朝居……」
「おまえんちじゃないからいいだろ。母さんも出かけてるし、気兼ねすることないから」
「いや、そうじゃなくて……」
信じられないものを見るかのように目を剥くカイトを自室に引っ張り込み、俺は素早く扉を閉めて自身の体でガードした。
「えーっと、喉渇いてる? なんか飲みもんとか」
「いらない。それより朝居、おまえは俺の話を聞いていたか?」
「……どの話?」
カイトが疲れた顔でため息をつくので、俺のやる気が減少する。
「ふたりきりは駄目だと言っただろう」
「お、俺はふたりで話したいって言った!」
「なら外で話そう。なにも部屋に上げなくても……」
「近所迷惑になるだろ。っていうか、なんでおまえはそんなに俺を避けようとするんだ? 毎度のごとく襲いたい衝動にでも駆られんの?」
どれだけ欲望に忠実なのかと呆れてみせれば、カイトは気まずげに目を逸らして口元を掌で覆った。
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