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「確かに俺は沙穗ちゃんのこと好きだったけど、今はもう振られてるし、つき合いたいとも思ってないし……」
厳密にいえば、もうそんな幻想は抱いてないというべきか。
俺の必死な説明に、カイトは口を挟んでくることもなく真剣に聞き入っている。
「なんていうか、だから変な誤解はしないでほしいというか。嫉妬とかしなくていいっていうか……!」
自分でもなにを言ってるのだろうと思う。
羞恥のあまり早口になり、最終的にカイトを見ていることが困難になった俺は、目を伏せたまま言い切った。
「お、俺の早とちりならいいんだ。でも、沙穗ちゃんを迎えに行ったあとから様子が変だったのって、もしかしてそういうことかなって……。金泉もそんなようなこと言ってたし、なんかまだ俺が沙穗ちゃんのこと好きだと思ってるんなら、誤解解いておいたほうがいいって」
「落ち着け……」
「お、落ち着いてるよ! だから、つまりなんていうか、沙穗ちゃんのことは気にしなくていいから。あ、あと、これからはちゃんとおまえのことも考えるっていうかっ」
緊張しすぎて支離滅裂になってきている。
カイトの勧めに従い、少し落ち着くべきかと一息ついたときだ。
「お、落ち着くんだ……」
再びカイトの震え声が耳に届き、俺に告げたものと思い顔を上げてひどく動揺した。
「な、なんでおまえがそんな顔してんの?」
見上げたカイトの顔は、腹を割って心情を告げた俺よりも赤く染まっており、今にも湯気をたてて鼻血を垂らしそうな具合だった。
おかげでかえって冷静になった俺は、軌道修正すべく咳払いで照れくささを振り払う。
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