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「新たな誤解を生んでそうだから訂正しておくけど、べつにおまえのことを好きになったとかそんなんじゃないからな。ただ、いきなりおかしな態度を取られると困惑するっつー話をしてるだけだから」
「朝居……考えるというのは、俺の告白に対する返事をか?」
「おまえ、俺の話聞いてんの? ――返事っていうか、おまえ自身のことっていうか……、恥ずかしいからもう聞いてくんなよッ」
まぎれもない本音を言葉にして伝えるというのは、身悶えしそうなほどに恥ずかしい。特に好きとか嫌いとかいう話題に関するものは余計に。
ふたりしてもじもじしているのも気持ちが悪いので、俺は再び大きく咳払いをすると、その場に立ち上がって手うちわで顔を扇いだ。
「あー、なんかあっついなー! やっぱお茶でも持ってくるから、お前は勉強を始める準備でもしててくれ」
白々しいにもほどがあるが、間に合わせの言いわけを残して部屋を飛び出すと、もつれそうな足で階下に向かった。
洗面所で火照った顔を洗ってから、キッチンで麦茶のペットボトルとグラスをふたつ用意して自室に戻る。
扉の前で改めて気持ちを落ち着かせると、意を決して中に踏み込んだ。
カイトは俺の指示を忠実に守り、ローテーブルの上に教科書を積んで待っていた。
「お待たー。悪いな、フローリングに座らせて。探せば座布団の一枚や二枚あると思うんだけど……」
持ち込んだ麦茶を邪魔にならないよう勉強机の上に置き、グラスに注いでカイトに差し出す。
「足が痛いようなら持ってくるけど……」
「それより、朝居。俺のほうからも聞きたいことがあるんだが」
受け取ったグラスをテーブルに置き、真面目くさった表情でカイトが言うので、俺はためらいつつも胡座をかいて聞く体勢に入った。
先ほどのこともあり、正面から向き合うことに抵抗を感じるが、カイトがこちらを見ろというので渋々顔を上げる。
「沙穗に嫉妬しておまえに迷惑をかけたのは謝る。すまなかった」
潔く頭を下げて謝るカイトに、俺は慌ててもういいからと声をかけた。
それはもう済んだ話だ。しかし、口を挟もうとする俺を押しとどめ、カイトは続ける。
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