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「そうじゃないんだ。俺は、焦るあまりやけになっていたのだと思う。おまえを困惑させたかったわけじゃないんだ……ただ、俺の気持ちを伝えたかっただけで……」
「――――カイトの気持ちは十分すぎるほど伝わってるよ」
「その伝えかたを間違えていることをようやく理解して、俺はもう少しおまえの事情を考えるべきだと気づいたんだ」
恐らく金泉が助言かなにかしたのだろうけど、そこに至るまでに時間がかかりすぎだ。
俺は内心呆れつつも、決して口に出すことはせず、カイトの懺悔に耳を傾ける。
「ただ、おまえと居るとどうにも辛抱できないから、ふたりきりになるのは控えるべきだと……」
そんなことを考慮してくれていたとはつゆ知らず、俺としたことが安易に自宅に招くとは……。
けれどこんなふうに反省しているということは、カイトは以前のように軽々しく襲いかかってはこないだろう。そう安心して体から力を抜いた俺だったが、さすがに楽観視しすぎた。
「朝居……」
ぼんやりと座り込んでいる俺を潤んだ瞳で見据えたカイトは、次の瞬間それはもう獣のような俊敏さで覆いかぶさってきた。
「おっま……! ちょ、言った傍からなにしてんだよ!」
「考えてくれるんだろう? 俺のこと。どれほどおまえを思っているか、知ってほしい……」
聞きたいことがあると言うから素直に従ったのに、こいつはなんにも理解していない。
俺の言ったことも金泉の助言も無駄にする気かと、両手で懸命にカイトの顎を押し退ける。
「ダメダメダメ! 落ち着け、ストップ、よく考えろ! おまえ、さっきなんて言った? 俺の事情はどうしたっ?」
「あ……」
「いいか? おまえが俺にどんなことをしたいかっていうのは、ちゃんとわかってる。俺とどうなりたいかっていうのも、考える、から……い、いきなり押し倒すのはやめろっ」
これじゃあ今までとなにも変わらないし、カイトに対して身構えるのが当然になって、好きとか嫌いとか考えるどころじゃなくなってしまう。
現状では恋愛感情にまでは至っていないけど、カイトが本気で俺を好きだというなら、もしかしたら……。
俺だって、カイトのことは憎からず思っているのだ。
床に倒れ込んだ状態で、力比べみたいな攻防を続けたままそのことを告げると、ようやくカイトは体重を乗せてくるのをやめた。
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