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「話戻すけど、ヒーローくんの集中が乱れた直接の原因ってボクじゃないよね。カイトに奢らせればいいのに……」
そうしたくても、カイト自身に会えないのだ。つまり金泉は単なるとばっちりだが、普段の行いが悪いからこうなる。
「あいつには後日謝罪させるからいいんだよ」
「……疑問なんだが、先輩が謝る必要性ってなくないか?」
事情の知らない佐渡の疑問は無視して、運ばれてきたパフェに取りかかった。
……まだ話すときではないのだ。というより、もう一度あの日のあらましを説明するのが気恥ずかしいだけだった。それに、教えたところで金泉と似たようなこと言うに決まってる。
「いいんだよ、だいたいカイトに責任があるんだから」
「そうだよね~。ヒーローくんを悩ませた責任を取ってもらわないとね~」
「なんの話だか……。そういえば今日は先輩は呼んでなかったのか?」
「ああ、カイトはね。うーん、自粛中? みたいな」
「自粛? どうかしたのか」
「あー……ん、と、ケダモノ的衝動を治めるための安静期間かなあ」
珍しく歯切れの悪い物言いに、佐渡は怪訝そうに首を捻ってから俺を見た。
「どういう意味だ?」
「なんで俺に聞くんだよ……」
と呆れつつも、今のでだいたいのことがわかった。
なんだ。会いづらいのは俺のほうだけじゃなかったのかと、少しだけ安堵する。意味合いはだいぶ違うみたいだが。
なんにせよ、是非ともそのケダモノ的衝動が治まるまで引っ込んでいてもらおう。
てっきり避けられているのかとも思ったけど、カイトが俺を避ける理由なんてそもそもないのだから、なにも不安がることなんてなかった。
「……ん?」
「どうかしたか?」
「いや、なんでもない……」
「そうか?」
佐渡が不思議そうに鼻を鳴らし、手元のケーキに視線を戻した。彼の隣の席では金泉がにまにまして恋人の動向を眺めている。
俺は先ほど感じられた不安感がなにによるものだったのか理解できないまま、スプーンをパフェの生クリームにブスリと突き刺した。
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