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「舞原か? 確かさっき棗先生と出ていったばかりで……」
「ありがとうございます!」
聞き出すなり、俺は来た方向とは逆に走り出した。
行き違う教師に咎められながらも廊下を駆け抜ける最中、どうして俺から会おうとする意志があるときばかり邪魔が入るのかと嘆息した。これも日頃の行いがものを言うのだろうか。
全力で走っただけあって、渡り廊下を並んで歩くふたりの背中に追いつくことができた。
俺は声を張り上げてカイトを呼び止める。
「カイトォッ!」
そして大きく弁当を振りかぶり、思い切りカイトのボディめがけてぶん投げた。
「幼馴染みパシリに使ってんじゃねーぞ!」
「あ、朝居……」
全力投球した弁当をなんなくキャッチしたカイトは、目の前で足を止め呼吸を整える俺を、困惑したような瞳で見下ろした。
その隣で、棗が教師らしく注意を飛ばしてくる。
「あ、朝居くん! ものを投げるなんて危ないことしちゃ駄目でしょ! もし舞原くんに当たってたら大怪我していたかもしれないんですよっ!」
「あ、はい、すみません。腹が立つあまり……」
「もう……。どんな事情があれ、暴力的な行為はいけません。それで、どうかしたの? すごく慌ててたみたいだけど」
「いえ、ちょっとカイトにもの申したいことがあって……。今借りちゃ駄目ですか?」
「うーん。これから資料室にこれを戻しに行くところだったんだけど……」
棗が抱えているファイルの山に視線を落とし、それから俺をちらりと見た。続けてカイトを盗み見て、なにか納得したように深く頷く。
「無関係の人に任せるのは忍びないんだけど、片づけが終わる頃には昼休みも終わっちゃうしね。そういうことで、はい」
なにがそういうことなのか、なんの説明もなしに棗先生は俺に持っていたファイルの山を手渡すと、カイトにあとはよろしくと告げて職員室のほうへと戻っていってしまった。
俺とカイトは顔を見合わせ、どちらからともなく歩き出した。
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