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「はっ? っていうか、作ってもらっておいて毎回当たり前の顔して食うってのが嫌だったってだけで……」
「そうか。俺と一緒に食いたかったのか」
「曲解すんなハゲ! 喋ってる暇があんなら、とっととそれしまっちまえ!」
「ハゲじゃない」
カイトはそこだけはきっぱりと否定し、黙々とファイルの山を減らしていった。
俺が食事を終え、弁当の蓋を閉めるのと同時に、カイトも作業を終わらせたようだ。
壁に備えられた時計を見上げれば、残り数分で午後の授業が開始する。俺は満たされた腹を撫でつつ、結局なにを目的にカイトを探していたのかと首を捻った。
「おまえさ、いきなり来なくなるのマジでやめろよ。そんで来ないときは弁当作らなくていいから」
「なぜだ? 俺がいなくて喜ぶのはおまえだろう」
それ、自分で言ってて悲しくならないのだろうか。
「そんなの前の話だろ! 今はそれほど嫌ってこともない。ってか、おまえは俺と恋人になりたいんじゃなかったのか?」
「……告白の返事か?」
「じゃなくて、仮にも俺を好きだって言うやつがさ、ひとりで飯食わせようとする? それとも、まだケダモノ的衝動をコントロールできない下半身馬鹿なの?」
「下半身ばかってなんだ……」
「おまえさあ、本当に俺を好きだって思ってんの?」
全然伝わってこないんだけど。
これじゃあ前のほうがまだあからさまでわかりやすかった。
俺は弁当に釣られて男に惚れるようなアホじゃねえ。それがわからないっていうなら、俺は卒業前にさっさと答えを出すぞ。
じっと下から睨みつけていると、俺の言葉に動揺していたらしいカイトが、はっとしたように瞳を瞬かせた。
「おまえが好きだ。その気持ちは変わらない」
「……だったら、それらしい努力をしろ。ただ弁当を作ればいいってもんじゃねえぞ。変態行為はなしで、これからも俺にその思いをぶつけてみろ」
そしたら考えてやらんこともない。
上から目線で言い捨てる俺に対し、カイトは愕然としたように立ち尽くした。
その手に弁当箱を押しつけ、俺は昼飯の礼を告げて資料室を出る。
扉を閉めると、ガタガタと騒がしい物音が聞こえた。
教室に戻って授業を受けたあと、金泉に経過報告をした。というかさせられた。
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