答えは内緒!

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「カイト? おいっ、なに、帰るの?」  ぐいぐい引っ張られてビビったけど、カイトの足がまっすぐ駅の方面に向かっていくのを見て抵抗をやめた。  物陰にでも引き込まれるのかと思い、一瞬本気で焦った。それからカイトの真剣な顔を目にして、自分の勘違いに気づいて恥ずかしくなる。 「おまえ……マジで唐突すぎ……」  いつも必要なときほど言葉に出してくれないから困ってしまう。  今度はどうした? 沙穗ちゃんの話をしていたから恋しくなったのか? と腹立ち紛れに愚痴っていたら、握り締められている手にギュッと力が込められた。  人通りの少ない道路でよかった。こんなところを人に見られでもしていたらと思うと、それだけで心臓が縮こまる。  周囲にばかり気を取られていた俺は、そっと引き寄せられて傾いだ体が、がっしりとした感触に受け止められる衝撃ではっと我に返った。  間近にカイトの美貌が飛び込んでくる。気づけば吐息が触れ合いそうな距離まで接近していた。 「カ、カイ……ッ」  ギョッとして仰け反る俺の手を口元まで運び、目の前で口づけられる。  手の甲にしっとりした唇の感触が伝わってきて、ゾクリと背筋に震えが走った。  カイトと目が合う。薄闇の中、黒い瞳がキラリと街灯を反射して煌めいた。 「今は、おまえが一番大事だ。俺はきっと、おまえを他の誰より幸せにできるよ」 「は……っ」  息を呑んだ。絶句を通り越して無呼吸状態の俺の頬を、カイトが親指と人差し指でふにっとつまんでくる。  慌ててその手を振り払い、感触の残る手をズボンでごしごしと拭った。 「はあ? おまえ、え? や、えっ、ちょっとこれはさすがに……うわ」  気障というか、頭がどうかしているというか。よく真顔で恥ずかしげもなく言えたものだ。  毎度のことながら、一昔前の少女漫画のヒーローでも見本にしたのかというような言動には心底困り果ててしまう。  羞恥のあまり、いても立ってもいられず逃げ出した俺のうしろを、カイトがごちゃごちゃ言い訳を連ねながらついてきた。
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