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「どうした」
「なんでも。次どうする? そろそろゲーセンも飽きてきたよな。腹減ったし、バーガーでも食いに行く?」
「ファーストフードか……。いや、そろそろ帰ろう。そっちの全部持って帰っていいぞ」
おもむろに携帯の時計を確認して帰り支度を始めるカイトに従い、俺も空き缶を捨ててゴミを片づける。
最近ゲーセンにばかり通って毎日お土産を持ち帰るから、邪魔にならないよう鞄の中にナイロン袋を常備していた。
本日の戦利品を袋の中に詰め込んでゲーセンをあとにする。
外はオレンジに染まり、太陽に焼かれたアスファルトがじりじりと熱を放っていた。そろそろ夏の季節だ。
少し歩いただけで瞬く間に背中に汗が滲み、俺はワイシャツの襟を扇いで風を送る。早く衣替えしないだろうかとか考えながら、なにげなく前を歩くカイトの背中を見た。
「カイトってあんま汗かかないよな。いつもさらっとしてる……」
汗染みどころかしわ一本ない真っ白な背中に手を伸ばし、背筋に沿って触れた。瞬間、電撃でも浴びたかのようにカイトが飛び上がるので、俺はギョッとして手を引っ込める。
「なんだよ、いきなりっ! 驚くだろ!」
「あ……す、すまない。おまえが突然触るから」
「どういう意味だよ。おまえは散々俺に触っておいて、俺から触るのは駄目なのか?」
「そう言うわけじゃないが……。朝居のほうこそ、自分からなら触れても平気なんだな」
カイトは疲れたようにため息をこぼす。
「心臓に悪いからせめて一言くれ。わかってると思うが、俺は存外堪え性がない」
「……俺が触るとどうなんの」
愚問だと自分でも思う。でも気になってしまうのだからしかたないだろう。
俺に触れられたときのカイトの心情を知りたい。好きな奴に触れられたときってどんなふうになってしまうんだ?
返答を待つ俺をじっと見下ろしていたカイトは、ここでは人目につきすぎるからと移動し始めた。
口頭で十分だろうと訝しむ俺に対し、カイトは言葉でなんて言い表せないと即答する。そんなもんか。
いったいどんな手段を用いて説明してくれるのか、想像力の貧困な俺は、路地裏なんかに連れ込まれて冷や汗を垂らした。
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