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「寝てない」
「寝てたら襲うところだった。可愛い顔してるなよ」
カイトの指が俺の目元をこすってくる。そのまま頬を滑っていき、唇に触れそうなところで我に返った。
「わわっ……」
すごい至近距離だ。目の前にある優しい眼差しに心臓が飛び跳ね、慌てて顔を背ける。
「それで、俺の気持ちが少しはわかったか?」
ひとりでわたわたしている俺をそっちのけに、カイトは大暴れしていた内部の様子からは窺えない冷静さで話を戻す。ここまで表に出ないというのもかえって不都合がありそうだ。
「不用心におまえに近寄るべきじゃないことがよーくわかった。今はどんな感じ?」
「幾分かマシだな。それよりおまえはどうなんだ」
「どうって……」
「沙穗のときと俺と、どちらがより緊張する?」
「そりゃ、圧倒的に沙穗ちゃんだろ。つうか、おまえの場合ドキドキの意味合いが違うというか」
ハラハラさせられるというか、ドギマギしてしまうというか。ごく稀にホッとすることもあるけど、圧倒的にドギマギが多い。
俺の抽象的な感想にふむと頷き、カイトは頬をゆるめた。
「案外、卒業までに答えが出るかもしれないな」
「なんでっ?」
「なんでもなにも、俺といるとドキドキもするけど落ち着くこともあるって言ったじゃないか。沙穗のときはどうだった?」
言われ、沙穗ちゃんの顔を思い浮かべる。
彼女といると、ドキドキして、キュンキュンして、笑顔の可愛さに癒やされた。まさしく俺の女神だった。
そしてカイトの顔を見る。
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