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「……っ、や、いや! ないないないっ! 絶対!」
「なにも全力で否定しなくても」
「だって……!」
「俺の前でだけじゃないのか、こんな顔をするのは」
おもむろに差し出された手を避け、薄汚れた壁に張りついて首を振る。
「触るな触るな! 馬鹿言ってんじゃねえっ、俺は、おまえのことなんか……っ」
「好きじゃないっていつも言うけど、そうやって過剰に反応していたらまるで信憑性がないぞ」
「うるさい。そうやって笑ってるけど、毎回なんだかんだへこんでるくせに。いつもどこでへたれと調子乗りが切り替わってんだよっ」
どっかにスイッチでもついてるんじゃないかと疑ってしまう。それくらい性格の変わりかたが極端だ。
実際は俺の言動がやつを調子づかせてるんだろうけど、それを認めてはいけないと俺の本能が囁くのだ。
「……早く俺に落ちればいい」
「うざい」
「このままだと、返事をもらえるのが先か、俺の心臓が限界を迎えるのが先かわからんな……」
それは切実な問題だ。
俺の責任にされたらたまったもんじゃないので、できればその問題だけはどうにか解決していただきたい。
ぶつぶつ独り言を垂れ流しているカイトに呆れ、俺は今のうちにと路地の出口に向かって歩き出す。
「どうでもいいけど、とっとと帰ろうぜ。いい加減腹が減りすぎてぶっ倒れる」
「待て、まだ話は終わってない……」
「明日でいいだろ、明日で。どうせ学校で会えるんだから」
「駄目だ。今日の話は今日しかできない」
「だったら家帰ってからメールでも電話でもしてこいよ。聞いてやるから」
そうだよ。せっかく携帯があるのに、俺たちってあんまり電話し合うことがない。
カイトと喋るのはそんなに嫌いじゃないから、今は答えを急かされるよりたくさん話をしてくれるほうがいい。そしたら、少しはカイトがケダモノなだけじゃないってことがわかるだろうし?
よく考えてやると宣言したからには、徹底的にカイトのことを知り尽くしてやろう。それから、ゆっくり答えを出していけばいい。
今日は思わぬカイトの一面を見てドギマギしたが、このくらいで俺を落とすことは不可能だ。
なんだか心理戦のゲームみたいで楽しくなってきた。
自然とにやける口を掌で覆い隠し、俺はひっそり声を出して笑った。
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