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期末試験を終え、あっという間にやってきた夏休み。
家で課題もせずにごろごろしていたところへ、金泉が祭りに行かないかと誘いをかけてきた。当然暇を持て余していた俺は、一も二もなくそれに飛びつく。
少し遠出をしてやってきた海沿いの街は駅前から祭り一色で、溢れかえる人ごみに俺は足を止めた。
待ち合わせ場所はコンコースに設置された時計台だが、これでは到底そこまで辿り着くことはできないだろう。
どうしたものかと頭を悩ませ、俺は携帯を取り出してボタンをプッシュした。
『ヒーローくん、今どこ?』
「今ついた。時計のとこまで行けないんだけど」
『じゃあボクたちが迎えに行くから、目印かなんか教えてくれる?』
「ああ……」
通話を終え、邪魔にならないよう改札から離れて端のほうに移動する。
浴衣を着ている家族連れや恋人たちを見るともなく眺めていると、通りの向こうから派手な一団がこちらに手を振っているのに気がついた。
金泉と佐渡、沙穗ちゃんにカイトと華やかなメンバーがぞろぞろやってくる。
「お待たせ~! ヒーローくん、普段着なんだ」
「ああ。面倒だしな」
「甚兵衛は涼しくて軽いらしいけど。ね、洵一」
「まあな……」
金髪に真っ赤な柄物の浴衣を着た金泉が、隣で居心地悪そうにしている甚兵衛姿の佐渡へ話題を振った。どうでもいいが、佐渡の鎖骨辺りに虫刺されみたいな痕があるんだけど、黙っておいたほうがいいのだろうか。
「みんなでお祭りにこれてよかったぁ。花火も楽しみだね」
女の子らしい花柄とレース飾りのついた浴衣をまとった沙穗ちゃんが、金泉にとびきりの笑顔を見せる。そのうしろ、この中では特に大人びた雰囲気のカイトが、俺をじっと見つめていた。
期待外れって顔だな……。
わかりやすいほど落胆を滲ませるカイトに手を上げて挨拶する。
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