5931人が本棚に入れています
本棚に追加
「よ。それ、似合ってるぜ」
「あ、ああ。ありがとう」
渋い色合いの着流しが見事にカイトの美貌を引き立てている。同性として若干嫉妬混じりに褒めれば、カイトは素直に照れて顎を引いた。嫌味が通用しないのはいつものことだ。
しかし、本当に格好いい。普段にも増して色気が増しているような……。
まじまじカイトを観察していると、にやけ面の金泉がトンと肩をぶつけてきた。
「見つめ合っちゃってやらしいー。とうとう惚れちゃった?」
「ばっ、違う!」
「いいよお、否定しなくたって。カッコイイもんねー、今日のカイト。あとでふたりきりにしてあげるからね」
「そんなこと……っ、おい、金泉!」
耳元でお節介なことを囁いた金泉は、ケラケラと愉快そうに笑いながら、沙穗ちゃんと佐渡を連れて祭りの会場方面へ歩き出した。
遅れてそのあとを追い、カイトと共に人いきれの中へと身を投じた。
あちらこちらと押し流されそうになる体を、カイトの腕が支えてくれる。前方を行く金泉は屋台の立ち並ぶほうへと進んだ。
「りんご飴食べる人ー!」
「はーい」
「あ、ヒーローくんたこ焼きあるよ! 好きでしょ、たこ焼き!」
「シュウ、ちょっと落ち着け」
「ほら、洵一の食べたがってたキュウリの一本漬けだよ-」
三人組はわいわいと買い食いを楽しんでいる。
俺はといえば、暑さと人の多さに酔って、若干グロッキーだった。とても楽しめる状態ではない。
「大丈夫か、朝居。ラムネ飲めるか?」
いつの間に買ってきたのか、ずっと傍らにいたはずのカイトが、水滴をまとった瓶ラムネを俺に差し出してきた。
ありがとうと礼を言って受け取る。
「はあ……まさかこんなに混んでるとは思わなかった」
夏休みとはいえ平日だし、学校によってはまだ休みに入っていないところもあるというのに、どこもかしこも人まみれだ。いったいどこからこんなに湧いてきたのかとうんざりしてしまう。
よく冷えたラムネに口をつけて文句を垂れる俺に、カイトは苦笑を漏らしてそうだなと相槌を打った。
「ここの祭りは全国的にも有名だからな。特に夜の花火は毎年ニュースにも取り上げられるくらいだ。この混雑も当然だろう」
「そうなんだ。じゃあ今年もすごいのかな。ちょっと楽しみになってきた」
最初のコメントを投稿しよう!