5931人が本棚に入れています
本棚に追加
「カイト……?」
俺の前を歩いていたはずのカイトが、いつの間にかいなくなっていた。
その場に立ち止まり、キョロキョロと辺りを見渡す。
「うっそ……はぐれた?」
いつのまにか駅前まで戻って来ていたようで、改札口から次々吐き出される人の波に押し流され、俺はいつしか身動きが取れなくなっていた。
このままではいけないとわかりながらも一度乗った流れからはなかなか抜け出せなくて、気がつけば出店の入り口まで戻され、人の切れ目でようやく人ごみから脱出できた。
茫然自失となりかけた頭を振り、慌てて携帯を取り出す。カイトに発信するも出ず、試しに金泉に連絡してみた。
二度三度と呼び出し音が続き、やがて聞き慣れた声が俺の呼びかけに答える。
『もしもし? ヒーローくん、沙穗ちゃん見つけたよ。きみはどこにいるの?』
「俺は出店の入り口んとこ。沙穗ちゃんは大丈夫だったのか?」
『うん、はぐれたことにも気づいてなかったみたい。金魚すくいに夢中になってたよ』
「そっか……よかった」
心の底から安堵した。
いつかみたいに変な輩に絡まれていたらどうしようかと心配していたのだ。
ほっとする俺の耳元で、金泉が剣呑な声を出す。
『まったくよくないよね。今度はきみが迷子だって? いないことに気づいたカイトがどれだけ慌てふためいたかわかってる? もう、大パニックだよ』
「げ、ごめん。ほんと。ちょっとよそ見してるあいだにいなくなってて……」
『すぐにボクのほうに連絡してきて、今探してると思う。きみは絶対にそこから動かないで、カイトのこと待ってて』
金泉は呆れた口調で言い捨て、通話を切った。
どうしよう。ものすごく面倒をかけてしまった。
俺はそわそわと落ち着かない気分でその場にしゃがみ込み、カイトが来てくれるのをじっと待つことにした。
目の前を大勢の人が通り過ぎていく。
路肩に座る俺のことなんか目に入らない様子で、ひどく楽しげに笑いながら露店を覗いては立ち去っていく。
せっかくの祭りに俺はなにをしてるんだろう。虚しくなってうつむいていると、左の方向から「すみません、通してください」と焦りを滲ませた声が聞こえてきて、行き交う人を押し退けて現れたカイトと目が合った。
最初のコメントを投稿しよう!