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「朝居!」
駆け寄ってきたカイトが、座り込んだままの俺の腕を掴んで立ち上がらせる。
勢いで抱き締められ、俺はわたわたとカイトの背中を拳で叩いた。
「ばっ、馬鹿! こんなとこで……」
「馬鹿はどっちだ、いきなりいなくなるなっ! おまえになにかあったのかと、どれだけ心配したと思ってるんだ……っ」
こんなに声を荒げるカイトは見たことがない。
ぜいぜいと息を乱し、額からはボタボタと滝のような汗が噴き出している。着流しの背中もびっしょりで、どれだけ俺のことを探してくれていたかがわかる。
俺は抵抗するのをやめ、カイトの胸に頭を預けた。
ドクドクと血流の音が全身から伝わってきて、申し訳なさに意地を張る気もなくなる。
「あ、ありがと……」
はぐれた俺を責めるでもなく、汗だくになるほど探し回ったあげく迎えに来てくれるとか……嬉しくないわけがない。
「おまえが無事ならそれでいい。俺も電話に出られなかったし、金泉がいてよかった」
「あ、そういえば沙穗ちゃんのこと聞いた? 見つかったって」
「さっきおまえの居場所を連絡してきたときに聞いた。そのまま三人で花火会場まで行くらしいから、俺たちも移動しよう」
抱き締めていた腕を緩め、カイトは俺の手を握った。再びはぐれてしまわないよう予防しているのだろう。
人前で、とか男同士なのに、と思わないでもなかったが、あんなに熱烈にハグし合ったあとで言うことでもないと好きにさせた。
俺に歩調を合わせて手を引くカイトの背を見つめ、もぞもぞと落ち着かない感情に眉を寄せる。
なんでこいつはこんなにいい奴なんだ。胸のうちでぼやく。
絶対に報われる保証もないのに、全身全霊で俺を大事にしようとする。女の子扱いをされてるのかと思うときもあるけど、恐らくそんなつもりはなくて、ただ好きな人に対する扱いが馬鹿みたいに丁寧なだけだ。
犬みたいに懐いてきて、当たり前の顔でわがまま聞いてくれて、料理も上手で頭もいい、そんな女子の憧れの的である男が、そこらへんにいるような同性の俺にべた惚れだなんて、いくら考えても信じられない。
けれど、実際にこいつは俺を好きだと言うし、態度でもそれを示して諦めないとしがみついてくる。
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