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そんな一途な奴とつき合う可能性って、俺の中に今どれくらいあるのだろう?
期末試験の前にカイトが言ったように、卒業を待つまでもなく答えなんてものは出てるんじゃないだろうか?
カイトのことで知りたいことはまだまだ山のようにある。でもそれって答えを出してからでも遅くはないよな。
――――そもそも、俺ってなんで拒否ってたんだっけ?
男同士を問題視するなら、この状況も許せてないだろう。
カイトを好きじゃないからなんて、交際を断る言い訳に過ぎない。今でもはっきり好きだって言えるかどうかわからないけど、べつにつき合うくらいなら構わないと思うようになった。
だったら、なんで?
じんわりと熱を持った自分の手を見下ろす。
ああ、そっか。カイトが下半身馬鹿だから嫌だったんだ。
そうかそうか、最近は約束を守っておとなしくしてくれてるから忘れてたけど、こいつってめちゃくちゃスケベなんだよ。
だから卒業まで期限設けたんだよな。
「なんだ……」
とっくに落ちてたんじゃん。馬鹿馬鹿しい。
なにを必死に抵抗していたのかと、自分自身に呆れ果てた。
俺の独り言を耳ざとく聞きつけ、カイトが肩越しに視線を寄こす。
「なにか言ったか?」
「いや、なんにも」
カイトは卒業まで知らないままでいればいい。どうせ告げた瞬間、我慢できなくなるケダモノだ。
これからはじっくりカイトのことを見極めて、最終的にどうするかを選べばいい。そのくらいの権利はあるだろう。
遠くでわっと歓声が上がった。空が明るく華やぎ、花火が次々打ち上げられていく。
「カイト、花火始まってるぞ」
「知ってる。やはりこの先は混雑してるな……見えるか、朝居?」
「うん、ちゃんと見えてるよ」
「そうか」
流れの滞った通路のど真ん中だったけど、今年の花火の美しさはここからでも十分実感できた。
空を仰ぐカイトを盗み見る。
当分こいつは俺に振り回される運命だけど、カイトが変わらず好きでいてくれたら俺も必ず言えるから。でも、まずは待たせてごめんって謝らないと。
繋いだままの手を握り返し、俺は先のことを想像してこっそり笑った。
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