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「日下部…日下部はいるかぁッ!!」
主人は放心状態の美也子を抱き上げると、隣の部屋まで聞こえる程の声で日下部の名を呼んだ。
「く、日下…さ…だ、旦那様……が……」
痛い程に強く日下部の腕を掴み、震える唇で夏生が言った。
「ええ、様子を…見てきます…夏生さんは此処で待っていてください。」
「こ…殺される…行ってはだ、駄目……」
バンッッ!
「くさかべえぇ!!!」
ドアを荒々しく開く音と共に主人の怒号が館内に響き渡った。
反射的に音の方に身体が反応する!
「夏生さん!放してください…私が行かないと貴女まで殺されてしまいます!」
「ああああぁ…怖い怖い怖い怖い殺される…私の…私のせいで……あああぁあぁ…ぁあ…」
言いながら振り返ると、夏生は両手で耳を押さえながら号泣している。
「夏生…さん……」
どうやら、日下部の言葉はもう夏生には届いていない様だった。
日下部は深く長い溜息を吐くと、夏生の手を引き剥がし、ドアへと向った。
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