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「日下部えぇぇ!!」
「……はッ!」
上の空の日下部に気付いたのか、主人の怒号が日下部に突き刺さる。
「聞こえなかったのか?2度は言わん…」
「も、申し訳ありません…畏まりました。只今、探して参ります…それまで旦那様は部屋でお待ちください。」
「……」
主人は鼻で荒い息を吐き出すと、血走った目で日下部に一瞥をくれ、美也子を抱えたまま踵を返した。
そして、日下部もまた主人が部屋に戻るのを確認すると、一先ず自室へと急いだ。
コンコンコンッ!
「夏生さん!私です…日下部です!入りますよ!」
日下部は隣の部屋の主人に感付かれない様に、押し殺した声でドアの向こうに呼び掛けると、素早くドアを開けた。
部屋に入るなり、先程まで座り込んでいた場所に目をやったが、そこには夏生の姿はなかった。
「夏生…さん?」
言いながら部屋に目を這わせると、夏生は月明かりに照らされながら窓際に佇んでいた。
「よかった…夏生さん!何処に行ったのかと…旦那様は部屋に戻られました。貴女は今のうちに逃げ……」
そこまで言って、日下部は言葉を飲み込んだ。
「夏生さん………」
夏生は窓際に立っていたのではなく、カーテンで首を吊ってゆっくりと左右に揺れていたのだった。
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