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(恐らく、私が部屋を出た後にすぐ……)
夏生の死体は目を開けたまま、口からは舌がだらんと垂れており、一目見て既に絶命している事が解った。
罪の意識と恐怖に耐えられなかったのだろうか…そして、頬にはまだ渇き切っていない涙の跡が残っている。
「くッ、貴女もまた……いえ、ゆっくり眠ってください。」
言いながら夏生の目蓋に掌を当てた。
日下部は強く唇を噛むと、カーテンから夏生の身体を解放し、静かに床に横たわらせた。
(夏生さん…しかし板など何処に…それに一体何の為に…それより今は急がなければ…何としてもお嬢様だけは……)
宗一、夏生の死、主人の変貌、美也子の安否…焦りが、冷静な日下部の思考回路を掻き乱す。
(急がねばならない時に役に立たない頭だ…ッッ!!)
苛立ちながら壁に頭を打ち付けた時だった…不意に窓の外の景色が視界に入った。
…今夜もまた紅く美しい月が妖艶に空を支配している。
(月か……そう言えばお嬢様がよくピアノで……お嬢さ……はッ!そうか!!)
日下部は思うが早いか足早に部屋を出ると、階段を駆け下り、庭へと走った。
(ある…あそこに板が!)
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