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そして、日下部は美也子の部屋の真下に着くなり、上着の袖を肘までたくし上げた。
(赦して…くれよ?)
べりっ!べりべりっ!
そして、渇いた音と共に、犬小屋の屋根部分から力任せに板を剥ぎ取った。
(ロック…すまない…大好きなお嬢様を助ける為だ…我慢してくれよ……)
日下部は板を剥がすと、1度美也子の部屋を見上げ、館の方へと踵を返した。
(しかし旦那様は何をお考えになって…)
階段を上ると、主人の部屋のドアは開け放されていた。
「旦那様!板をお持ちしました…」
日下部は自分の存在を気付かせる為に、わざと大声で言った。
「…どうしたのかね?」
主人は部屋のソファーに腰掛け、紫煙をくゆらせながら低い声で応じた。
「い、いえ…言われた通りに板をお持ちしましたので…」
日下部は言いながら目だけで部屋を探ったが、何処にも美也子の姿が見当たらない。
「板…何を言ってるんだね?」
主人は不思議そうな顔で煙草を揉み消すと、日下部を見据えた。
「旦那様……?」
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