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「最後に…そうだな、3日前かな。一緒に庭で月を見ながら話したのが最後だ。」
主人は中空を眺めながら記憶を辿る素振りを見せた。
「それに…紅く美しい月が出ていたのを覚えている。」
「そうですか…では、お嬢様とは?」
日下部は眼鏡の位置を中指で直しながら、出来る限り表情に出さない様に努めた。
「……美也子とは暫く会っていないはずだが?」
「………!」
(やはり覚えていないのか…)
「なあ、日下部…今度は私から質問してもいいかね?」
「…なんでしょう?」
「………」
そして、主人は怪訝そうな顔で大きな溜息を吐くと、ソファーに深く座り直した。
「……何を探ろうとしているんだね?」
「私の言葉の意味が、本当に理解出来ませんか?」
「あ、ああ……何の事だかさっぱり解らんよ。」
「そうですね…では、少し私に付き合って頂けますか?」
「………」
日下部は返答を待たずに立ち上がると、ドアの前まで行き、主人を振り返った。
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