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(く、悪い方に記憶が……!)
記憶喪失時に強い衝撃を受けたりすると、弾みで記憶を取り戻す事もあると言う…それが日下部の狙いだった。
こんな事になってしまった以上、主人には罪を認めて自首して欲しい…
そして、せめて美也子だけでも救いたい…そんな思いからくる苦肉の策だった。
だが、それは粉々に打ち砕かれ、寧ろ状況を悪化させてしまった。
(ひとまず私を殺す気はないらしい…この場さえ乗り切れば警察に……)
「旦那様!失礼…致しました…じ、迅速に…死体を片付けて参り…ますのでッ……」
「………」
鼻血で呼吸が困難な為、荒い吐息混じりにそう叫ぶと、すこし間を置いて主人は足を退けた。
「……!」
そして、日下部は素早く起き上がると、流れ出る鼻血を袖で拭った。
「で、では…此処は私に任せて旦…那様はお…休みください……」
日下部がそう言うと、主人は血走った目を日下部に向けた。
「………妙な事は考えるな。何かあったら真っ先に美也子を殺す。」
「……!!」
「美也子の部屋にいる…死体を片付けたら直ぐに来い。」
主人はそう言って口元を歪めると、日下部の横を擦り抜けてドアの向こうに消えた。
「畏まり…ました。」
日下部は歯を食い縛りながら、主人の後ろ姿に深く頭を下げた。
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