281人が本棚に入れています
本棚に追加
「だったら…お父様に怪しまれてしまいます。早くその板で窓を打ち付けてください。」
美也子は日下部の手に目をやり、優しく微笑んだ。
「……!」
美也子の言葉から迷いは感じられない。
「こ、これは……」
そして、日下部の心に深く穴を穿った。
「私に見られていたのでは打ちにくいでしょう。」
「は、いや…しかし…!」
美也子はそう言って日下部に背中を向けた。
「お、お嬢様……」
「怖くないと言えば嘘になる……でも、宗一が来てくれると言うなら…信じていますから。」
そう言った美也子の目には力があり、これから閉じ込められる人間のそれではなかった。
宗一が来てくれるから…
愛する人間の言葉だとは言え、そんなに簡単に信じられるものだろうか。
そして、ただそれだけの言葉で人はこんなにも強くなれるものだろうか。
自分の入り込む余地のない程に宗一と美也子は強く繋がっている…
日下部の中に僅かながら嫉妬にも似た感情が芽生えたが、それ以上に美也子に叶わぬ期待を持たせてしまった事を悔いた。
最初のコメントを投稿しよう!