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「……」
「日下部さん…早く!」
「……」
美也子は俯いて微動だにしない日下部を急かしたが、一向に動く気配がない。
「日下部さ……」
「解っています!ですが……」
「……!」
日下部は声を荒げ、美也子の言葉を遮ると、眉間に皺を寄せ、大きく溜息を吐いた。
「申し訳ありません。その前に…いえ、こんな時に不謹慎なのは承知で、1つだけ聞かせて頂きたい事があるのですが…」
呆気に取られる美也子を余所に、日下部は続けた。
「聞きたい…事……私に?」
「ええ、そうです。時間もない様なので単刀直入に訊かせて頂きます。」
日下部の表情はいつもに増して真剣だった。
「お嬢様は私の……」
「何をしている…日下部ええええぇ…ッッ!!!」
「……ッッ!!」
そこまで言い掛けた瞬間、部屋を隔ててドアの向こうから主人の怒号が響いた。
「お父様が…日下部さん!」
美也子の言葉に日下部は黙って頷き、板を打ち付け始めた。
ガンッ…ガンッ……ガンッ!!
「日下部さん…そう言えば、さっき聞きたかった事って…」
断続的な板を打ち付ける音の合間に美也子は訊いた。
「いえ、何でもありません…下らない事です。」
日下部はそう言って手を止めると、俯いたまま微笑んだ。
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