第八章

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 宗と鳥と薬嗣が、夢の中で敵と対峙していた頃、狸と煉は、本当にお茶を飲んでいた。  「………本当にお茶飲むんだもんなー。この御狸様は。しかも、俺の張った結界を擦り抜けて、お茶の準備するし。俺、自信無くしそうですよ。これでも、最強の陰陽師とか言われてたんっスよ?」  煉は苦笑しながら、お茶請けの小さな饅頭を摘んだ。  「最強だろが何じゃろうが、ワシには関係無いのは知っておるじゃろ。いい加減諦めろ。」  狸も音を立てて、ほうじ茶を啜る。  「…………そう言えばの。最強の陰陽師殿に聞きたい事があったんじゃ。」  「すり抜けついでに、饅頭まで蒸してくるんだもんなー。しかも美味いし。………何ですか?」  ぶつぶつと文句を言いながら、お茶で饅頭を流し込む煉を見て、狸はちょっと意地の悪い笑みを浮かべる。  「最強とか言うておるが、餮に掛けた呪いは随分お粗末じゃの?」  「ああ……。天狗様。ちょっと勘違いしてますよ?」  煉は急須にお湯を注ぎ、自分と狸の湯のみ茶わんに、お茶のおかわりを注いで、少し思案してから、話しを進めた。  「ああいう呪いの類いは、標的に最後まで覚られない様にするのが定石なんですよ。………肉体を捨てて呪いを解いたつもりかもしれませんが、俺の呪印がそんな生易しい訳ないですよー。ま、解いたと油断させて、一気に奈落の底へ突き落とす。これが一流の陰陽師の仕事ですって。アフターサービス、ばっちりですから安心してください。」  ヘラヘラと笑う煉を見て、狸は少し眉をひそめる。  「…………お主に殺す権利は与えておらんぞ?」  「殺すなんて言って無いっスよ。…………死んだ方がマシだと思える苦痛を与える事ぐらい、俺には朝飯前ですから。……そうですね。そろそろかな?」  煉は腕時計を見ながら、ゆっくりと楽しげにお茶を啜る煉の顔を見て、狸は呆れたが、煉が薬嗣を大事にしている事を知っているので、文句と小言は、お茶と一緒に飲み込む事にした。
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