第八章

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 ヨ・コ・セ。ソ・レ・ハ・オ・レ・ノ・モ・ノ・ダ。     頭に響く不気味な声。それは薬嗣の憶えている、餮の声では無かった。  ………恐い……。  薬嗣は自分の弟だったその人間らしきモノを見て、肩が震える。  「ふーむ。何だろうね?あれ。元は人間だったようだが、腕には炎呪印。肉体は捨てている筈なのに、凄い存在感。………誰が施した術だろうねえ………。」  誰が……。と言いながらも、鳥には犯人が判っている様子だ。宗は短い時間の間で、鳥と言う人物の(鳥だが。)性格が掴めてきたので敢えて聞く事はしない。それよりも、怯える薬嗣の事が何よりも心配だった。  「教授。今日のおやつは、クレープですよ?………不本意ですが、馬鹿親父から貰ったウバもありますのでチャイでも淹れましょう。それとも、ミルクティーが良いですか?」  宗は薬嗣を降ろすと、鳥を掴んで、薬嗣に渡した。  「老師の毛、一本程の変わりにもなりませんが、少しはお役に立つと思いますので、持っていてくださいね。…………頼みましたよ?金さん。…………我が血の盟約により、来たれ我が刃よっ!!」    ドンッッ!!     一筋の雷が、宗の目の前に轟音と共に落ちる。そこには、薬嗣と初めて事件に巻き込まれた時に、帯刀していた剣が突き刺さっていた。  「…………貴方の罪は幾多の人間の命を奪った事です。しかしそれを裁くのは桔梗兄の仕事。私が裁くのは貴方の兄である教授を裏切った罪。」  宗は剣を引き抜くと、切っ先を餮に突き出す。  「『餮』その意味は飲食を貪る。…………貴方は人間の命を貪り続けたばかりが、教授の心迄も貪り続けた。優しい教授の心を貪り、弱りきった所を襲うとは……中国の四凶の一つ、饕餮(とうてつ)そのものですね。」  宗は珍しく怒りを顕にすると、餮はその様子を見て、ニヤニヤと笑って応えた。     ソ・レ・ガ・ド・ウ・シ・タ?ア・ン・タ・モ、オ・ナ・ジ・ア・ナ・ノ・ムジ・ナ・ダ・ロ?     宗はその言葉を受け、冷ややかに笑う。  「ええ。でも私は、貴方と違って、教授を傷つけない自信もありますし、教授に愛される自信もありますから。………誰もかれもが貴様の戯れ言に惑わされると思うな。」  宗は、言い終わると同時に、地を蹴りつけた。
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