第八章

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 薬嗣は餮に歩み寄りながら、和紙をもう一枚取り出す。  「私の役目は教授の安全を確保して、そのトランクを封じる事ですから。私が神器を取り出して油断しましたね?こちらは囮です。」  餮は宗との力量の差を見せ付けられて、ガックリと膝を折った。  「おや?教授を手に入れるとか散々ほざいていたのに根性ありませんね。まあ………貴方ごときに教授は渡すつもりはありませんから。」  にっこりと微笑むその姿は、神と言うよりも、地獄の使者の様だった。  「うーむ。宗ちゃん、愛に生きてるねえ~。薬嗣。良かったなあ。………かづっちゃんの弟子だけあって、執念深いわ。」  鳥は不気味な餮よりも、豹変した宗を見て、唖然としている薬嗣に話し掛けた。  「あの敵さんより宗ちゃんの方が怖えーよな。しかもあの自信満々。よっぽど嬉しかったんだねえ~。」  「………嬉しい……?」  薬嗣は鳥の言葉にやっと、反応した。  「ほら。薬嗣がさ。粉々になってまであの石の欠片握りしめてたでしょ?あの石、翡翠のは宗ちゃん作ったんだよ?」  「………嘘……。」  鳥は信じられないと言った表情の薬嗣の頬っぺたを羽で軽く撫でる。  「金さん嘘つかない。あれはさ、薬嗣が人間界に降りと決まって時、宗ちゃんがかづっちゃんに渡したんだよ?転生する部屋はあそこの一族しか入れないからねえ。で、かづっちゃんが止もうえず、人間界に来る事になって、しょうがなく父親の炎ちゃんに頼んだ訳。炎ちゃんもさー。結構うっかり屋な所があって、転生させた後、渡すの忘れてた事に気が付いて、慌て追い掛けて、何とか君の手元に渡せたんだよねえ。まあ、かづっちゃんに内緒にしようとしていたらしいけど、バレバレらしいからあ~………天界に帰ったら炎ちゃん、その辺り苛められるだろうねえ。アハハ。まあ、そんな訳で。役に立たなくなっても、自分があげた物を大事に握り締めてくれてたんだもの。宗ちゃん益々、ドッキドッキ?な感じで張り切っていると思われます。」 薬嗣は、手のひらにあった石を無意識に握り締めていた。
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