第八章

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 「では。トランクを封印して……。」  宗は札をトランクに張る。  「封っ!!」  バチンッ!と音を立てて、トランクは閉じられた。  「さて。」  宗は餮を見下すと、手に持っていた剣を地面に刺して、指をパキパキと鳴らす。  「死なない程度に殴っても良いですか?」  ……………うわあ……。俺、宗のあんな愉しそうな顔初めて見たよ。  奇遇だな。俺もだ。  薬嗣と鳥が心で会話をしていたら突然、餮が悲鳴を上げた。  「ギャアアアアアッッッッ!!う、腕がっ………腕がっっ!!」  餮の声は、今までと違い、現実世界の声だった。  「宗っっ!どれだけ目に見えない早さで殴ったんだっ?!」  「殴って無いよ。ありゃあ、煉の炎呪印だな。……………相変わらずいやらしい~。」  魂にまで浸食する呪いなんて掛けられる奴なんか、今では一握りも居まい。その一握りが夫婦なんだから怖えーよな。鳥はクックックッと笑うと宗に声を掛けた。  「おーい!宗ちゃん。俺達の仕事はここまでだ。ボコボコにするのは諦めな。そいつから離れてこっち来てちょーだい。薬嗣のお守り、バトンタッチね。」  「………わかりました。」  鳥に言われると、宗は剣を引き抜き、腰に掛けてあった鞘に収める。  「もう二度とお会いできないですね。」  それだけを言い残すと、言われた通りに薬嗣の傍らへと戻って来た。戻って来ると同時に鳥は羽ばたき、餮の頭上で留まった。  「さーてと………。馬鹿だね、お前さん。一度道摩に咎められた時に止めておけば良かったのに。」  鳥は哀れむ様に餮を眺めた。  「お前さんはアイツに取って、体の良い傀儡だったんだよ。だがね、お前さんは傀儡とはいえ、余りにも人を殺め過ぎた。その罪はとても許される物じゃない。…………道よ開け。この者を裁く神への元へ。開門。」  餮の足下に扉が浮かび、その中へ、餮を誘う。  「………やめ………。」  餮は泣きそうな顔で許しを請う。  「俺は遅いと言った筈だ。死して許しを請うて来い。閉門。」  ギギギギ………ドンッ!  重厚な音と共に、餮姿も飲み込まれて、辺りは再び静けさを取り戻した。
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