1102人が本棚に入れています
本棚に追加
第九章
…………何処か遠くで俺を呼ぶ叫び声が聞こえた気がして目が覚めた。
「………寝てたのか…。」
俺はランプの小さな灯りを目で追った。
今、何時ぐらいかな?
厳重に封印された扉の小窓から外を眺める。
結構日が高い。そろそろお昼かな?
「狸、今日は特別メニューとか言ってたな。なんだろ?」
ぼんやりと考えていたら、小さな気配を感じた。…………狸じゃないっ?!
俺は慌てた。この気配は多分子供の気配だ。いくら幼子とは言え、今の俺の力に当てられたら……。狸が作ったこの部屋でも、俺の力は完全に封じられてない!どうしよう………!
慌てる俺の脳裏には最悪の事態が過る。
頼むから此処まで来ないでくれっ!!
俺の祈りは虚しく、扉を叩く音が聞こえると、扉の下にある食事等の差し入れ口から、お盆に乗った昼食が差し入れる。
「ろうしにいわれてもってきました。」
抑揚の無い、小さな少年の声。
「………老師?狸の事か?それより、お前!早く帰れ!!」
俺の近くに居たら、最悪死んでしまう。だから早く………!
「ろうしから、たべたおぼんをもらってかえってこいといわれました。」
淡々と応える声。………この子供、何でこんなに感情の無い喋り方をするんだ?
「……お前、何とも無いのか?」
「………なんとも?………あなたのこえをきくとなんだかあたたかいきがします。」
…………こいつ……。ひょっとすると、狸とかと同じ、俺の力の影響を受けないのか?
「………おじさん?」
「おじ………?!て、俺の事かよっ!……あ―……でもお前ぐらいの年からしたら立派なおじさんか……。俺は薬嗣。お前は何処の誰だ?」
俺が少し楽しくなって聞くと、少年は答えた。
「……そう、です。」
それは紛れもない、宗との出逢い。季節は小さな蕾が一斉に芽吹く季節。それから長い年月を送る、忘れもしない、最初の一歩だった。
最初のコメントを投稿しよう!