第九章

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第九章

 …………何処か遠くで俺を呼ぶ叫び声が聞こえた気がして目が覚めた。  「………寝てたのか…。」  俺はランプの小さな灯りを目で追った。  今、何時ぐらいかな?  厳重に封印された扉の小窓から外を眺める。  結構日が高い。そろそろお昼かな?  「狸、今日は特別メニューとか言ってたな。なんだろ?」  ぼんやりと考えていたら、小さな気配を感じた。…………狸じゃないっ?!  俺は慌てた。この気配は多分子供の気配だ。いくら幼子とは言え、今の俺の力に当てられたら……。狸が作ったこの部屋でも、俺の力は完全に封じられてない!どうしよう………!  慌てる俺の脳裏には最悪の事態が過る。  頼むから此処まで来ないでくれっ!!  俺の祈りは虚しく、扉を叩く音が聞こえると、扉の下にある食事等の差し入れ口から、お盆に乗った昼食が差し入れる。  「ろうしにいわれてもってきました。」  抑揚の無い、小さな少年の声。  「………老師?狸の事か?それより、お前!早く帰れ!!」  俺の近くに居たら、最悪死んでしまう。だから早く………!  「ろうしから、たべたおぼんをもらってかえってこいといわれました。」  淡々と応える声。………この子供、何でこんなに感情の無い喋り方をするんだ?  「……お前、何とも無いのか?」  「………なんとも?………あなたのこえをきくとなんだかあたたかいきがします。」  …………こいつ……。ひょっとすると、狸とかと同じ、俺の力の影響を受けないのか?  「………おじさん?」  「おじ………?!て、俺の事かよっ!……あ―……でもお前ぐらいの年からしたら立派なおじさんか……。俺は薬嗣。お前は何処の誰だ?」  俺が少し楽しくなって聞くと、少年は答えた。  「……そう、です。」                                   それは紛れもない、宗との出逢い。季節は小さな蕾が一斉に芽吹く季節。それから長い年月を送る、忘れもしない、最初の一歩だった。
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