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「なあ宗。俺さ、色々な経験してさ、夢か現実解らなくなる事があったんだ。」
薬嗣は起き上がると、宗が持ってきたカップを受け取り、一口啜る。
「………チャイ?今回は随分スパイシーだな。」
「ええ。頭をスッキリさせるには良いかなと思いまして。」
「スッキリ………。つーか、あの光景見て、一発で目え醒めたわ。」
夢から目覚めると、何故か狸と煉と桔梗君が、みかんの前に正座して説教を受けていた。それが今だに続いている。
「何か見た事のある光景ですね。」
「あれだ。この間、桔梗君がみかんに土下座してただろ。」
「ああ。あれでしたか。教授。」
宗がニッコリと笑う。
「あの様なものを見ては目の毒です。お約束通り、クレープを焼きますので、あちらの部屋に移りましょうか。」
「え。や、でもさ。色々話さないといけない事もあるし。」
「教授。」
宗は柔らかな物腰で、薬嗣の手を引いた。
「放っておくのが一番ですよ?」
「助けんかいっっ!!坊っっ!!」
「宗ちゃーん。お祖父ちゃん、足痺れてきたよー。」
……………チッ……。
「お二人共、一体何をやったんですか?」
「今、舌打ちしたじゃろっっ!!」「いやですね。老師。教授を助けに行きましたら、見知らぬ鳥に穴に落とされて、帰る時も、貴方の奥様と見知らぬ兎に落とされたこの私が、舌打ちすると思いますか?」
顔が笑っているが、目が笑って無い。
「ワ、ワシが悪いのか?!ワシはお主の手助けをしてやってくれと、オッサン達に言っただけじゃぞっ!」
「ええ。助けて頂きましたよ。八朔様。」
「呼び捨てで良いっつの!何だ!」
「私と教授は、隣の部屋でお待ちしておりますので、終わりましたらそちらにお越しください。」
宗は薬嗣を抱き上げると、部屋を出て行った。
「………天狗様。」
「なんじゃいっ。」
「俺、何時になったらお花を摘みに行けるのでしょうか?」
「文句はお前の孫に言えっっ!!」
八つ当たり気味に言った狸の表情は、存外、愉しげだった。
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