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狸と煉がフラフラになりながら部屋に入ってきたのは、宗がクレープをフランべしている時だった。
「クレープ・シュゼットか。」
同じぐらい説教を受けていた筈なのに、桔梗はケロリとした顔で、当然の如く、椅子に着席した。
「出来上がるまで、これで食い繋ぐか。」
桔梗は懐から包みを取り出す。
「ワシの饅頭じゃろそれっっ!!勝手に食うなっっ!それは小僧が帰ってきたら食べさせようと……。」
桔梗はお構い無しに包みから小ぶりの饅頭を摘む。
「薬嗣。」
「ん?な……!」
口を開けたところを見計らい、饅頭を放り投げた。
「これで薬嗣も食べたから文句はあるまい。」
「一個しかやらんのかっっ!!」
狸が桔梗に突っ込みを入れていたら、叫び声が上がった。
「秘書のにーちゃん!コアントローかけすぎっっ!引火してるっっ!!」
「ちょっと、宗ちゃん!それフランべじゃないっっっ!火災っ!火災っっ!!」
「……………うむ。俺が薬嗣とイチャイチャしてたからか。」
原因を作った桔梗が一番冷静だった。
「………桔梗兄。」
薬嗣は焦がしたクレープを盛り付けると、桔梗の前に突き出す。
「桔梗兄には八朔様がいらっしゃるので、教授にはイチャイチャしないでくださいっ。」
桔梗は一瞬、動きが止まったが、フッと笑うと皿を受け取った。
「気を付けよう。…………ところで宗。この海苔の如く真っ黒焦げのクレープを、俺に食せと?」
「焦がしたのは桔梗兄の責任ですし、食べ物を粗末にするなと、敬愛する二人の師匠からの教えですから。」
はにかみながら言う宗は、何か一皮剥けたのか、余裕のある表情をしている。
「頂こうか。………良い経験をしてきたようだな。茶飲みついでだ。お前の話しを聞こう。」
「はい。老師もお祖父様も八朔様も一緒に聞いて頂けますか?」
促された三人は、返事の変わりに、椅子に腰をかけた。
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