第九章

9/11
前へ
/169ページ
次へ
 宗は今迄にあった出来事をクレープを焼きながら話しをした。話し終える頃には、寸胴に一杯のクレープ生地の種が無くなっていた。桔梗の食欲も去る事ながら、薬嗣もたっぷりと食べて満足そうにしている。  「…………本当にお好きなんですね……。」  「な?わんこクレープの意味が解っただろ?」  「しかし、以前お作りした時には……。」  「あー。我慢したんだろうなー。ま、説明と同時進行お疲れ様。」  八朔は気軽に、ポンッと肩を叩いた。  「いえ。八朔様こそ。お手伝い頂きまして、有り難うございます。」  八朔は生地を必死に焼く宗の隣で、フルーツを切ったり、ソースを作ったりと同じぐらい大変な思いをしていた筈だ。  「俺はあの甘味魔王で慣れてるからな。」  八朔のさりげない心遣いに頭が下がる。  「宗………。」  「?おかわりはありませんよ。桔梗兄。」  「宗には薬嗣が居るのですから、八朔君とイチャイチャしないでください。」  宗の声色と口調で桔梗は言った。  「キショいっっ!!秘書のにーちゃんの嫉妬は可愛いが、お前のは可愛く無いっっ!!!」  「そうか。」  キショいと言われても大して気にもしていないのか、桔梗はあっさりと受け流した。  「俺はみかんちゃんも酷いと思うが、桔梗様の根性も凄いと思います。」  「桔梗はサドかと思っておったが、意外にマゾなんじゃろうか?八朔はドが付くSじゃが。」  「はい、そこの狸とオッサン。後でもう一回説教な。」  「!!!」  「それよりも、そのトランクはどうした?」  説教と聞いて怯える二人を尻目に桔梗は話しを進める。  「……それが。多分、教授の夢の中に置いてきたと………。」  「ふむ。まずいな……。」  それほど力のある術具なら、封印したとは言え、放って置くのは得策では無い。 「俺がもう一度、薬嗣の夢「その必用は無い。」」 狸は桔梗の言葉を制した。  「オッサン其の二が後始末をつけている筈じゃ。まあ、暫しはのんびりできるじゃろ。宗、ワシに熱い焙じ茶!」  狸の言葉は、何処か質問を阻む雰囲気を漂わせていたので、それ以上は誰も追及をしなかった。
/169ページ

最初のコメントを投稿しよう!

1102人が本棚に入れています
本棚に追加