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宗は今迄にあった出来事をクレープを焼きながら話しをした。話し終える頃には、寸胴に一杯のクレープ生地の種が無くなっていた。桔梗の食欲も去る事ながら、薬嗣もたっぷりと食べて満足そうにしている。
「…………本当にお好きなんですね……。」
「な?わんこクレープの意味が解っただろ?」
「しかし、以前お作りした時には……。」
「あー。我慢したんだろうなー。ま、説明と同時進行お疲れ様。」
八朔は気軽に、ポンッと肩を叩いた。
「いえ。八朔様こそ。お手伝い頂きまして、有り難うございます。」
八朔は生地を必死に焼く宗の隣で、フルーツを切ったり、ソースを作ったりと同じぐらい大変な思いをしていた筈だ。
「俺はあの甘味魔王で慣れてるからな。」
八朔のさりげない心遣いに頭が下がる。
「宗………。」
「?おかわりはありませんよ。桔梗兄。」
「宗には薬嗣が居るのですから、八朔君とイチャイチャしないでください。」
宗の声色と口調で桔梗は言った。
「キショいっっ!!秘書のにーちゃんの嫉妬は可愛いが、お前のは可愛く無いっっ!!!」
「そうか。」
キショいと言われても大して気にもしていないのか、桔梗はあっさりと受け流した。
「俺はみかんちゃんも酷いと思うが、桔梗様の根性も凄いと思います。」
「桔梗はサドかと思っておったが、意外にマゾなんじゃろうか?八朔はドが付くSじゃが。」
「はい、そこの狸とオッサン。後でもう一回説教な。」
「!!!」
「それよりも、そのトランクはどうした?」
説教と聞いて怯える二人を尻目に桔梗は話しを進める。
「……それが。多分、教授の夢の中に置いてきたと………。」
「ふむ。まずいな……。」
それほど力のある術具なら、封印したとは言え、放って置くのは得策では無い。
「俺がもう一度、薬嗣の夢「その必用は無い。」」
狸は桔梗の言葉を制した。
「オッサン其の二が後始末をつけている筈じゃ。まあ、暫しはのんびりできるじゃろ。宗、ワシに熱い焙じ茶!」
狸の言葉は、何処か質問を阻む雰囲気を漂わせていたので、それ以上は誰も追及をしなかった。
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