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「さて。今回の件で、ちょっと一段落できそうじゃな。」
そのまま口を閉ざすと思っていたら狸は、何時も通りの口調で言った。
「……みかんちゃんの任命式はどうします?上から言ってきてるんでしょ。」
「言ってきたところで、このワシが動くと思うか?然るべき時期が来たら然るべきタイミングで、天界に帰る。それまでバックレじゃい。」
「わーお。男前なんですからー。天狗様。」
「…………師匠。薬嗣の弟の件だが……。」
桔梗がチラリと薬嗣を見やる。
「桔梗君。俺の事は気にしなくて良いよ。俺は吹っ切れた。夢の中でアイツに捕まった時………言い様も無いぐらい気持ち悪かったんだ。…………それだけだ。」
その表情は、吹っ切れたと言うよりも、何処か諦めた寂しさを感じさせる。その顔を見て、何とも言えない気分になり、掛ける言葉を探していたら、狸が薬嗣の膝に乗った。
「…狸?」
狸がピョコピョコとふさふさの尻尾を揺らす。
「うむ。ワシの定位置。煉の頭とは違い、居心地通いのー。」
「狸、それ酷くないか?」
「酷い?馬鹿じゃのう。酷いのは、美人さんをこんな表情にさせておいて、掛ける言葉が見つからなく狼狽えている、ダメダメな男共じゃよ。」
「美人さんて………俺か?」
狸はニンマリと笑う。
「当たり前じゃ。自分の事よりも、あの惚け茄子弟を手に掛けた桔梗の事や、惚け茄子弟によって故郷を滅ぼされた八朔の事を思って憂いおる、ワシのご自慢の美人で優しい弟子の事以外に誰がおる。小僧、泣きたい時はいくらでも泣け。ワシはいくらでも胸を貸すぞ。自分の想い人に掛ける言葉が見つからなくて、狼狽えとる、どっかの誰かさんよりも、泣き心地は良いとおもうぞ?」
「老師っ!それはっ!」
狸が、フフンと鼻を鳴らす。
「やっぱりお主には小僧は勿体ないかのー?のう。秘書殿?」
「老師には絶対に負けませんっっ!」
「おっ?おおおお~~!!」
宗は狸を薬嗣から引き離すと、煉に投げつけた。
「お祖父様っっ!その危険人物……もとい、危険狸、あのクソ親父に渡してきてくださいっっ!!」
「……ですって。因みに俺は孫の味方ですぜ?天狗様っっ!」
「!!離せっっ!やめろぉぉぉ……………………。」
狸を抱えた煉は、あっという間に部屋から消え失せた。
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