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最終章 芽吹く季節に出会えた貴石(あなた)
狸がスペシャルメニューと行った少年は、それ以来、毎日毎日、俺の所に現れた。
『やくつぐさま、さくらの花がさきそうです。』
『きょうは、ききょうけいから本をかりてきました。』
『ははうえが、やくつぐさまがあまいものがお好きだと言ってましたので、クッキーをつくりました。』
来る度に何からしら話題を振ってくる。俺も最初は自分の力に当てられたら……と色々考えていたが、どうやら大丈夫だと分かると、安心して扉越しに会話を楽しんだ。
「宗。お前、何時も俺の所に来てるが、友達とかと遊ぶ時間あるのか?」
「ともだち……ですか?」
…………なんだよ、この重苦しい空気。
「お前、友達居ないとか言わないよな?」
「あの…………やくつぐさま。」
「ん?」
あー何かモジモジしてるのが分かる。可愛いなー。俺が不謹慎な事を考えていたら、宗がとんでもない言葉に度肝を抜かれた。
「ともだちとはなんですか?」
「珍しいのう。お前がワシを呼び付けるとは。」
狸は部屋の中に入って来ると灯りを点けた。
「…………何でアイツを俺の所に寄越した。」
「ほ?何かあったかの。」
とぼけた口調に俺はキレた。 「しらばっくれてんじゃねえっっ!アイツ……宗は感情が他と違うっっ!あの年で友達、一人も居ないなんて……友達を知らないなんて事があるかっ!?」
「……あの子はの、産まれた瞬間産声も上げず、ケガをしても声を出さず、殺されかけても悲鳴も叫び声も出さなかった。殺そうとした相手が言っておったよ『何の感情も持たない瞳で、首を締め付けた俺をただ見ていたんだ……。』殺そうとした相手が、余りにも無反応、無感情、無表情だった為、逆に恐ろしくなって失敗ったそうじゃ。お主と似ておるじゃろ?」
自分の力を恐れ、自分の中に閉じこもり、挙げ句、死ぬ事ばかり考えているおるお主にの。………狸に言われて俺は二の句を告げなかった。
「ワシが知らんとでも思っておったか?じゃからお主等二人を会わせた。例え結果がどの様な事になってもの。…………どうじゃった?あの子は。」
狸の問いに俺は口を開いた。
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