最終章 芽吹く季節に出会えた貴石(あなた)

2/10
前へ
/169ページ
次へ
 「それで?教授は何と答えました?」  桔梗君が色々話す事があるだろうと、以前来た事のあるサンコートの様な場所を開けてくれた。  前来た時は座れる場所ぐらいと、花も少ししかなかったが、みかんが手入れをしたのか、花壇の中には彩りの花が咲き乱れ、木々も植樹されていた。ちょっとした温室と化している。  「良く見たら、実のなる木ばっかりだな。」  食いしん坊の桔梗君対策だろうか?何だかんだで仲が良いよな。  「………教授。」  珍しく宗が俺の話しを促す。まあ、ちょっと恥ずかしいので言い淀んでいたのは確かだが。  「あの時、俺はさ、兎に角自分の司る『春』が大嫌いだった。確かに俺の力が強いのが原因だよ?それでもさ、所構わず襲われる身になってみろ。狸や他の力が効かない奴はほんの一握り。こんな力何か、何にも役に立たない。目覚めさせるぐらいなら、俺じゃなくても誰かが出来る。…………そう思うと生きている意味が見いだせなかった。」  あの日、あの瞬間、あの場所で、小さな魂に出会うまでは。  「だから狸に問われて答えたよ。…………宗が俺の居場所を作ってくれたから、俺もアイツの居場所になってやりたい。大嫌いな芽吹きの季節が、大好きになった……てさ。」  俺のこの特異体質も、誰かの役に立った。それだけで俺は生きたい、この小さな少年と歩んで行きたい。神様でも人間でも単純なものだ。細やかな喜びを知ると、もっと沢山の望みが出てくる。  この小さな少年が、笑ったり怒ったりするのが見てみたい。  「お前にしたら迷惑な話しかもしれないけどさ。でも俺は単純にそう思った。」  そうして狸に『笑顔見る前に顔自体見て無いじゃろうが。』と笑われて、次に来た時に、少しだけ扉を開けて待ってみた。  「ああ。そうでしたね。何時もピタリと閉じられていたのに、不思議でした。」  「すんごい勇気いたんだぞ?全開にして、力に当てられたらどうしようとか、オッサンだと分かって逃げられたらどうしようとかさ。」  「………逃げませんよ。」  宗はゆっくりと俺を抱き寄せた。  「私も自分の中に芽生えたこの感情が何か、知りたかったので。」
/169ページ

最初のコメントを投稿しよう!

1102人が本棚に入れています
本棚に追加