最終章 芽吹く季節に出会えた貴石(あなた)

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 「これか?」  トランクを一瞥すると、ロックを外す。  「まあ、あの場で壊しても良かったんだが、見てもらおうと思ってな。………見ろ。」  トランクが開くと、鎖が飛び出し、身体中に巻き付く。  「……おい。」  眉を潜めて巻き付く鎖を外そう手を伸ばすと、制止された。  「大丈夫だって。これ、解る?」  腕に巻き付く鎖を見ると、細かな触手みたいなモノが、腕に食い込んでいた。  「ああ、成る程。この鎖で四肢の自由を奪い、触手で洗脳すると。で、気分どうなの?朝金(あさかね)。」  「俺?別に何ともねえけどさ。ただね、面白い仕組みでね。アイツよりも力の無い奴等は洗脳されるだろうな。………怖いねぇ。」  怖いと良いながらもその表情は余裕だ。だが、制止された男は不満そうな顔をすると、その鎖を引きちぎる。  「……………へらへら笑っているな馬鹿が。私は面白く無いぞ。」  引きちぎった鎖を床に叩きつける。  「夜銀(やがね)…………何で怒ってんの?」  夜銀と呼ばれた男は、眉間に青筋を浮かべると、手の平に金の炎を灯した。  「怒って無い!」      ボンッ!!      炎をトランクに叩きつけると、一瞬にして消え失せる。  「…………あのさあ朝金。俺の身にもなってよねぇ。八つ当たりされるの俺なんだからさー。」  「ん?何で間昼(まひる)に八つ当たりするんだ?」  ………鈍い……。間昼と呼ばれた男は苦笑すると、直ぐに顔を引き締める。  「これ。使われた形跡あったよね。」  「ああ。今迄の流れからすると犠牲になった奴が居るな。ただ、奴等なのか奴なのかは分からん。」  「アイツの術ならば、見分けるのは困難だ。…………だが、手駒は一つ破壊した。」  薬嗣の弟。手駒としては悪くは無かった。薬嗣が肉親を疑ったりするような性格ではない上、自分が弟にまで、性的対象者になるとは思う事は髪の毛一本すらも思わないだろう。  だが、辛くも周囲にはそれを見抜ける者、薬嗣を守る者が居た。  「……苦労をかけるよね。」  「だな。」  「仕方があるまい。これはあの子が選んで決めた事だ。…………私達が手出し出来ない以上、動けるのはあの子しか居ないからな。」  夜銀の言葉に辺りは闇に包まれた。
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