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それは暑い暑い夏の日。
太陽が容赦無く辺りを煌々と照らしつけ、蝉達は残りわずかの命を楽しむかのように鳴いている。
それは、梅雨時のじめじめとした鬱陶しい暑さなどではなく、どこか潔く、それでいて清々しい暑さだった。
渇いた喉を潤すために、みずみずしい果実──フルーツでも食べたくなるような、そんな暑さ。
そして、その真夏の暑さを遮るものなど何もないだだっ広い空間、この地域の中学生が揃って入学する、いたって普通の県立高校である葉月高校のグラウンドにたたずむ人間が二人。
二人ともが高校指定の制服に身を包んでおり、四階建てである葉月高校の校舎を眩しそうに見上げていた。
一人は背の低い男子生徒、そしてもう一人は、その男子生徒より頭一つ背の高い女子生徒。
「さあ、行こうか妹よ」
「五月蝿い……シスコンが」
短髪の黒髪をわざとらしくかき上げながら女子生徒──妹にむかって手を差し伸べた兄だが、妹に軽くあしらわれ、さらには重い一言を身に刻まれた。
「行くぞシスコン……事態は一刻を争うのだから……」
「シスコンで構わない! だからお兄ちゃんと一度愛の口づけぶるぁっ!」
兄の言葉を遮るように、素人とは思えない鮮やかなアッパーカットを兄の顎にかました妹は、何事もなかったかのようにすたすたと歩き始めた。
向かう先は葉月高校。
「私達と同じ存在がここに……私にも上手くやれるだろうか……」
どこまでも煌々と輝く太陽と、それに照らされた校舎を不安気に見上げ、妹は誰に言うでもなく呟いた。
「ちょっと! 何いい感じにプロローグしめてんのさ! わかった、口づけとまでは言わない、だから熱い抱擁をぶるぁっ!」
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